楽天モバイルの正式サービスが、4月8日にスタートした。当初予告していた通り、料金プランは基本的に「Rakuten UN-LIMIT(以下、UN-LIMIT)」一択で、料金は月額2980円(税別、以下同)。データ通信の容量は無制限になる。300万人まで料金は1年間無料だが、現時点では到達してないという。サービス開始に合わせ、大きなサプライズもあった。それが、パートナーエリアの容量増量だ。
もともと、UN-LIMIT発表時は、auローミング時のデータ容量が2GBに制限されていたが、4月22日からはこれが5GBに増量される。さらに、5GBを使い切った後の通信速度も、128kbpsから1Mbpsに緩和される。楽天モバイルによると、新型コロナウイルス感染症拡大による支援の意味も含め、計画していた増量を前倒しにしたという。ここでは、その影響を見ていきたい。
サプライズだったauローミングのデータ容量拡大
UN-LIMIT発表時に、悪い意味でのサプライズになったのが、auローミング時の容量制限だった。無料サポータープログラムでは使い放題だったauローミングが、2GBへと一気に絞られてしまったからだ。本連載でも過去に指摘した通り、背景には1GBあたり500円近くかかるローミング料金がある。形式的にはユーザーがこれを楽天モバイルに支払う形だが、その9割以上がKDDIに支払われる。2980円の料金では、無制限のローミングは許容することができない。
料金発表前に、ローミングを提供するKDDIの高橋誠社長が「無制限のような料金を提供すると、われわれにローミング料金をお支払いすることになってしまう(ので難しいのではないか)」と述べていたのは、そのためだ。ふたを開けてみると、無制限の料金プランは提供されたものの、auローミング時の容量は2GBに制限される形となった。
自社回線の無制限と、auローミング時の2GBでは落差が大きい。東京23区のように、自前のエリアが進んでいる場所でも、地下街はauに接続することが多い。通勤、通学で地下鉄を使っていると、すぐにデータ量を使い果たしてしまう恐れがあった。東京でも23区を出れば、まだまだauローミングに切り替わる場所は少なくない。首都圏単位で見ても、これは同じだ。東京23区や大阪、名古屋を除くほとんどのユーザーの目には、無制限ではなく、2GBで2980円の料金に映っていたというわけだ。
楽天モバイルは、こうした不満を、正式サービス開始に合わせて一気に解消した。冒頭で述べた通り、auローミングの容量は倍増以上になる5GBに増量。これを使い切った後の速度も、128kbpsから1Mbpsに高速化した。5GBの容量があれば、通勤、通学時に短い動画を見るにも十分。仮に使い切ってしまっても、1Mbpsの速度が安定して出ていれば、画質を落とすことで乗り切れる。ストリーミングの音楽程度であれば、文字通り無制限に近い形で利用できそうだ。
MVNOからMNOへのマイグレーションも加速できるか
新規ユーザーにはもちろん、同じ楽天モバイルが運営するMVNOのユーザーにとっても、auローミングが5GBに増量されたのは、魅力的なはずだ。MVNOの楽天モバイルは、4月7日で新規受付を終了。サービス自体は当面継続していくというが、自社回線の楽天モバイルへの移行は促していく。MVNOの楽天モバイルは、10分かけ放題の通話やデータ通信がセットになった「スーパーホーダイ」をメインの料金プランに据えていた。2GBの「プランS」の料金は、2年目以降が2980円だ。
このプランSのユーザーが楽天モバイルの自社回線に移ると、支払い額は維持したまま、使えるデータ容量が増える。楽天モバイルエリアなら無制限、そうでない場合も2GBから5GBに容量がアップし、しかもauローミングが使えれば、エリアもMVNOと大きくは変わらない。さらにキャンペーンで1年間無料になるとなれば、移行するメリットは大きい。6GBの「プランM」の場合は1GB使えるデータ量は少なくなるが、支払額も1000円下がる計算になる。
auローミングが2GBだった当初のUN-LIMITだと、プランSで据え置き、プランMだと大幅に容量が下がることになり、MVNOの楽天モバイルユーザーが非常に移りづらい。この2プランは、特にユーザー層が厚そうなだけに、auローミングが5GBになったことで、移行に弾みをつけることができるかもしれない。
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ローミング頼みを早期に脱却できるか、端末やネットワークの安定性も課題
ユーザーにとっての魅力が増した楽天モバイルのUN-LIMITだが、収益性は別の話だ。先の述べた通り、ユーザーがauローミングを利用すると500円の料金が発生する。5GBをフルに使われると、2500円。このうち楽天モバイルからKDDIへの支払いは、2000円以上になる。現時点では料金が発生していないため、使われれば使われるほど赤字幅は大きくなる。仮に2980円を取っていたとしても、5GB使われた場合、楽天モバイルに残るのは1000円を下回る。
しかも、auローミングの課金単位は、あくまでデータ量だ。5GB超過後に速度制限をかけても、ユーザーに利用されればされるだけ、楽天モバイルからKDDIへの支払いは発生することになる。制限後の速度を128kbpsから1Mbpsに緩和したため、そのリスクは高まったといえる。ユーザーによっては、いわゆる逆ザヤになってしまうケースもありそうだ。
楽天モバイルがこの状態を脱するには、いかにauローミングを減らしていくかが鍵になる。そのためには、自社回線のエリアを早急に広げる必要がある。3月末時点に予定していた4400局は達成したといい、基地局は急ピッチで増やしているが、首都圏単位で見ても、まだまだ面的にカバーできていない部分は多い。総務省に提出した開設計画では、2026年3月までに人口カバー率96%を達成する見込みだが、今以上のペースで、これを前倒しにしていく必要がありそうだ。
料金面では一定のインパクトを出せた楽天モバイルだが、その他の課題は多い。端末ラインアップは、その1つだ。特に日本でのシェアが高いiPhoneを取り扱えていないのは、ユーザーを獲得する上でのハードルになりそうだ。SIMロックフリーのiPhoneとSIMカードを別々にそろえる手はあるが、現状では正式にサポートはしておらず、RCSを使ったRakuten LinkのiOS版もないため、電話をするたびに通話料が20円/30秒かかってしまう。
本サービスを開始したばかりとあって、今は十分なスピードが出るものの、楽天モバイルの持つ周波数は、1.7GHzの20MHz分と限りがある。2980円が無料になる300万人を超えたとき、今の快適さを維持できるのかは未知数だ。完全仮想化ネットワークにも、一抹の不安は残る。無料サポータープログラム期間中にも、12月、2月、3月と通信障害が発生しているため、本サービス開始後に同様の事態が起こらないことを期待したい。
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