本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載
課題とチャンスのコーナーでは毎回、コラボレーションした企業とスタートアップのケーススタディをお届けします。
コロナ禍で急浮上したau IKEBUKURO店での端末除菌問題。前回の記事ではここに挑戦したスタートアップの共創ストーリーをお届けしました。最終回となる今回は、やはり感染症拡大で打撃を受けたキッズスペースを手助けするソリューションの共創事例です。子供たちの遊び場はデジタル技術でどのように変わり、新たなビジネスとなるのでしょうか。
子供たちの遊び場をデジタルで救え
「2017年からリトルプラネットというファミリー向けデジタルテーマパークを全国で運営していたのですが、 今年発生した感染症拡大でテーマパークが長期休業を強いられることになったんです」ーー。こう語るのはリトルプラネットを運営するプレースホルダ代表取締役CEOの後藤貴史さんです。
常設展示で全国11箇所に展開しているテーマパークは、子供たちが集まって遊ぶということもあって営業の休止を余儀なくされます。6月から営業再開に漕ぎつけるものの、先行きは不透明なままです。
「ただ今回の問題が発生する以前から、リトルプラネットのアトラクション(体験コンテンツ)を導入したいという企業さんからの問い合わせが定期的にあったので、コンテンツを切り出して販売する準備自体は進めていました。そこでこれをきっかけに全社的なB2B事業を一気に立ち上げることになった、というのが背景にあります。ただ、社員のマインドも急に転換することになり一時期は戸惑いも見られました」(プレースホルダ代表取締役 後藤貴史さん)。
こういった経緯で開発されたのが、今回の共創事例となる小型デジタル遊具「スマイルパッケージ」です。子供たちが描いたお絵かきをスキャンするだけで、画面の中に3Dとなって登場するという体験ができるもので、これを安価、かつ短期間で導入できるように、スキャナと一体化したツールを独自に開発してサービス化しました。これがMUGENLABO支援プログラム 2020に採用されたことで、KDDIの直営店であるau IKEBUKUROとGINZA456の両店舗で展示され、GINZA456では実際にご家族で体験することができるようになっています。
「主なターゲットは店舗や商業施設などのキッズスペースです。近年、多くの店舗でキッズスペースを設置していますが、あくまで”保護者の用事が済むまで子どもたちが遊んで待っている場所”という位置づけであることが多く、実はマーケティングやブランディング、顧客満足のために活用できている店舗はそう多くないんです。一方でキッズスペースにも賃料は発生していますよね。ここに注目して私たちの技術でこのスペースを店舗と消費者(来店者)の双方にメリットがある空間に生まれ変わらせたいと考えていました」(プレースホルダ 後藤さん)。
後藤さんのお話によれば、従来型のキッズスペースではマットや遊具などアナログな体験が多く、一方でデジタル化しようにもコストや運営の問題が大きくのしかかるそうです。壮大なコンテンツを制作すれば当然費用はかかりますし、難しい操作が必要なデバイスを用意してもスタッフが対応できないケースが出てきます。これを月額5万円という低価格に抑えつつ解決しようというのが後藤さんたちの取り組みでした。
「コンセントにつなぐだけですぐ使えるデザイン、新たなコンテンツを追加していける更新性を大切にしました。現在は3種のコンテンツを体験することができますが、これによって『来店するたびに変化する遊具』として提供することが可能になります。また最近の動向として、一般的な絵本やオモチャだと消毒や清掃が難しく、キッズスペースを閉鎖する店舗が多いんです。この点、デジタルは接触を最低限に減らして遊ぶことができるため、そこを期待される声も多いですね」(プレースホルダ 後藤さん)。
連続起業家は共創をどう活用する
プレースホルダを語る上でもうひとつの注目点、それが代表の後藤さんについてです。
後藤さんは大学在学中の2007年にゲーム事業を手掛けるポケラボを創業した人物で、300名規模にまで企業を成長させた後の2012年、グリーによる子会社化を経験した連続起業家でもあります。プレースホルダは東京放送ホールディングスやKDDI Open Innovation Fundなどから出資を受けているのですが、こういった事業会社との資本関係の重要性についてこのようなエピソードを教えてくれました。
「(リトルプラネットが入っている)ららぽーとさんなどのような大手デベロッパーさんとの取引は創業当時、やはり信頼してもらうのは難しかったですね。いくら(過去の事業で)実績があっても最初の店舗って本当に決まらなかったです。個人で保証に入ろうがどうやっても無理で。信頼あるブランドが優先されるのは当たり前でした。だからこういった不動産会社さんとおつき合いする上で、信頼ある事業会社さんからしっかりフォローしてもらえるだけで導入が進むというケースもありましたね」(プレースホルダ 後藤さん)。
共創をなぜやるのか、という問いに対する答えの一つがスピードです。プレースホルダの創業は2016年。連続起業家で、事業経験も豊富にあった後藤さんにとって、ヒットするコンテンツや仕組みを作り出すことは確度の高い仕事だったと思います。一方、積み上げが必要なブランドや信頼はどうしても時間がかかります。プレースホルダの事例はそこをショートカットしたケースでしょう。
今回のB2Bモデルへのシフトチェンジにも共創がうまく寄与しているようです。
「(GINZA456設置のきっかけは)今年8月にau IKEBUKUROで「スタートアップのコロナ対策」というテーマのプレスイベントがあったんです。そこでスマイルパッケージを採用いただきました。その際はまだイベント当日の展示のみだったんですが、それがきっかけでどこかの直営店舗に設置したいという声をいただき、結果、GINZA456の『au 5Gや先端テクノロジーを活用しお客さまの想像を体験に変え「おもしろいほうの未来へ」が体感できる』というコンセプトがスマイルパッケージの体験と合ってるよねということで設置に至りました」(プレースホルダ 後藤さん)。
また、今回のコラボレーションは社内でも反響があったそうです。検討してきたとはいえ、突然の店舗休業やB2Bモデルへのシフトチェンジに戸惑っていた社内メンバーも、自分たちの開発した技術がKDDIの代表的な旗艦店舗に展示されることで大きな自信につながったと言います。
後藤さんは今後もこのサービスのブラッシュアップを続け、共創によって掴んだきっかけをさらに拡大し「ファミリー体験をトータルにデザインできる連合団」を作っていきたいとお話されていました。
「今後、スマイルパッケージ以外にもさまざまなB2Bプロダクトを開発していく考えですが、我々だけでは足りない部分も沢山あります。さまざまな会社と協業し、プロダクトやパッケージの共同開発をしていきたいですね。例えば施工・設計会社さん、デベロッパーさん、広告代理店さん、機材メーカーさんなどです。我々の技術を広く展開していくためにパートナーの存在は不可欠です。すでにさまざまな企業と話を進めていますが、ご興味のある企業の方はぜひ声をかけていただきたいです」(プレースホルダ 後藤さん)。
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November 19, 2020 at 12:30PM
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