LAVIE VEGAの企画担当者であるNECパーソナルコンピュータ(NEC PC)の中井祐介氏は、業界内では少しばかり名の通った人物だ。
NEC PCでは2012年に発売された初代「LaVie Z」から超軽量モバイルPCの企画を担当。2015 International CESでは「LAVIE Hybrid ZERO」でBest of CES Awards 2015の「ベストPC賞」を受賞した実績もあり、本誌の取材記事でもたびたび登場している。
そして、13~14型クラスの超軽量モバイルPCというのはモバイルの主力であり、もっとも最先端の技術が投入され、つねにブランドの威信を賭けた戦いが繰り広げられている。中井氏はつねにその最前線で、強力な競合他社、および1kgを大きく切るところで“1g単位の重さ”と戦い続けてきたわけだ。
その中井氏がはじめて企画した“15.6型”のノートPCが、NEC PCのラインナップに新たに加わった「LAVIE VEGA」である。画面サイズ15.6型のPCというと「ごく普通」、「スタンダード」といった性格を連想するかもしれないが、当然ただのスタンダードPCではない。青く輝く星として知られるVEGAの名を冠していることからも、かなりの意欲作であることが伺いしれる。
開発の意図は何か、どんな思いが込められているのか、取材に伺った。なお、LAVIE VEGAの使い勝手などについては別掲のレビュー記事(自分の可能性を広げてくれるクリエイティブなパートナー「LAVIE VEGA」)を参照してほしい。
情報感度の高いクリエイター、フォトグラファーがターゲット
――LAVIE VEGAのターゲット層を教えてください。
中井氏(以下敬称略) 当社はPCラインナップ戦略として、セグメントを明確にし、PRO(プロフェッショナル)、EDU(教育、学生向け)、Home(家庭)、Game(※いまはまだなく今後展開予定)と、それぞれにフォーカスした製品展開をしています。
今回のLAVIE VEGAは、カテゴリとしてはPROシリーズに当たります。このセグメントでは2019年に発売したLAVIE Pro Mobileがたいへん好評をいただいていますが、それに次ぐ製品となります。
ビジネス色が強いLAVIE PRO Mobileに対して、LAVIE VEGAでは、情報感度の高いクリエイターの方、とくにフォトグラファーを想定ターゲットにしています。モバイルというわけではないですが、ある程度アクティブに持ち運んで使っていただくことも想定し、可搬性も意識しています。
――YouTubeでアニメCMを公開されています。声優さんや楽曲含め、かなり本格的な印象です。
中井 当社としてもはじめての試みなのですが、認知を広げたいという狙いです。ターゲットとしているクリエイティブな層に刺さるのではないかと考え、制作してみました。舞台設定は、AIが発達した近未来「CREATOKYO(クリエイトーキョー)」です。単純作業、労働的なことはすべてAIがするため、人間の価値は「いかにクリエイティブであるか」で決まる世界、そこでVEGAを使うと……という内容になっています。
――セグメントとしては「PRO」シリーズということですが、なぜVEGAという名前なのでしょうか?
中井 おっしゃるとおり、製品の分類からいけば、本来は「LAVIE PRO NOTE~」のような名前にするところです。しかし、実際にできあがった製品を見たときに、ちょっともったいないなと。最上位モデルの天板カラーのイメージから、青く輝く星として有名な「VEGA」を取り入れることにしました。
――デザインもかなり凝っています。
中井 情報感度の高い方に届けたい、スタイリッシュに使っていただきたいという思いから、デザインには力を入れています。狭額縁デザインはもちろんですが、沈み込むタイプのヒンジを使ってすっきりとしたフォルムに仕上げています。高級感を出すために、アルミニウム素材にアルマイト加工を施して美しく仕上げています。最上位モデルについては、Corningに特注したガラス天板を採用しています。
モバイルの制約から開放され「これまでにない加飾」にチャレンジ
――このガラス天板はインパクトがありますね。見た瞬間にオオッと感じるものがありました。
中井 ガラスを使いたい思いは前々からあったのですが、素材的にどうしても重くなってしまいます。私の担当はシビアに軽量を競うモバイルだったので重さ的に機会がありませんでした。15.6型の今回は良い機会だと思っていたところ、米沢の先行技術を研究している部隊(NTI=New Technology Innovation)でも素材の研究をしてくれていて、こちらのサンプル(※以下の写真を参照)にあるように、LAVIE Hybrid ZEROを改造したガラス天板のプロトタイプができるまでに進んでいたんです。
――アイデアに応える技術の準備もできていたんですね。
中井 ただし、ガラスということだけですと過去には他社製品の例もあります。より大きなインパクトを出すために、今回やりたかったのは、ガラスの特性を活かした、これまでになかったような新しい“加飾”へのチャレンジです。とくに強く反射するミラー感と深みのあるブルーの発色には強くこだわりました。実際にやってみるとミラー感とブルーの発色を両立させることが難しく……試作段階のものではうまく出ていないのがわかると思います。
――たしかに試作版は少し霞がかったように見えます。
中井 なかなか思うようにいかなかったのですが、スマートフォンの製品では、面積は小さいものの、ミラー仕上げの美しい製品が存在しています。ならば15.6型でも技術的にはやれるはずだと(笑)。Corningさんとも密接にコミニュケーションをさせていただき、満足のいくものができました。サンプルのやりとりはそれはもう、何度も何度も繰り返しました。最終的には技術者が乗り込んでつきっきりでやっていました(笑)。
――ピカピカすぎて感覚的に持ち運ぶには少し怖い気もするのですが、傷とかはどうなのでしょう?
中井 Gorilla Glass 6ですので、その点は心配無用です。CESや国内発表会でもデモを実施しましたが、鉄球を落としても割れるどころか傷もつきません。開発段階ではいろんな素材で同じテストを試したのですが、カーボンでも少しへこむんですね。塗装については、下地塗装、コーティングなどを含めて5層くらい重ねています。多少は指紋がついてしまいますが、指紋防止のコーティングもしているので、拭き取りやすくはなっています。
――このガラス部分だけ持ってみると意外に……というより、すごく軽いですね
中井 ちょっと正確な数字は出てこないんですが、60~70gくらいだと思います。それでもLAVIE Pro MobileのようなモバイルPCですと“犯罪的”と言われてしまいます(笑)。15.6型の高付加価値モデルだからこそできたことですね。
美しさと機能性が同居する「機能美」が信条
――モバイルの制約から開放されて、やりたいことができるようになったわけですね。
中井 そういう意味では、OLEDディスプレイもそうですね。階調表現、色再現性に優れており、エンターテイメントにもクリエイティブにも最適です。薄型軽量にもできるのですが、消費電力がネックになって従来のモバイルには搭載することができませんでした。今回、量販店向けラインナップの中位モデルでもOLEDディスプレイを搭載しているのは、コスト的にがんばったところかなと思います。
――モダンスタンバイに対応していますが、Hプロセッサ搭載モデルとしてはめずらしいですね。
中井 じつはこれもこだわりの1つです。できるだけPCを使っていただきたい、使いやすくしたいという思いからがんばりました。というのも、私自身の自宅での生活を振り返ってみても、これまでPCよりもタブレットを使ってしまうことが多かったんですが、その理由を考えてみたところ……やっぱり、電源を入れて、起動を待たなければならないことがおっくうなんですね。
最近は起動が速くなっていて15秒くらいではあるんですが、それでもやっぱり面倒なんですね。たくさん使ってもらうにはモダンスタンバイ、そしてコルタナによる音声起動はマストだと考えました。
――ロゴが光るのも印象的ですね。
中井 このロゴが光る機能自体は開発段階でできていました。離れたところから起動できるのは便利なんですが、起動したときに何かしら反応がほしい……と思ったところで結びつきました。
手前味噌ながら、これはデザインと機能を兼ね備えたすばらしいソリューションではないかと(笑)。製品を企画する時のポリシーとして“機能美”というものをつねに意識していますが、ここはきれいに決まったかなと思っています。
15.6型に“わくわく感”を
――基本スペックについてはどうでしょう。個人的な感想として、クリエイター向けとしては物足りない印象もあります。とくにメモリが少ないと感じました。
中井 実用性、コスト、製造上(オンボード搭載)の理由などを考慮して決定しました。大容量データ、大量のコンテンツを扱うようなクリエイターの方には物足りないのかもしれませんが、コンシューマユーザーのクリエイティブ用途としては十分と考えています。
――ディスクリートGPUを搭載しない点については?
中井 ディスクリートGPUの搭載も検討はしましたが、バッテリ駆動時間、放熱、動作音といった面も考慮し、今回は搭載を見送りました。現実問題、クリエイティブ用途においてはCPU性能が重要な一方で、外部GPUを搭載してどれだけ性能が向上するのか疑問もあります。
Intelの内蔵GPUもOpen CLに対応しているためGPUアクセラレーションは利用できますし、近年は性能的にも上がっているのでターゲットユーザーに対しては十分だと判断しました。メモリ容量も含めて今後の検討課題ではあります。
――たしかに写真編集において、世間で言われるほどGPUは重要ではないかもしれません。プロキー導入の意図について教えてください。
中井 これはゲーミングPCから着想を得たものです。ゲーミングPCの多くはショートカットやマクロを登録できるキーが用意されています。クリエイティブツールにもCtrl、Altと数字キーといった3つ以上のキーを組み合わせたショートカットも多くあります。
こうしたものを1つのキーで代用できたら便利なのではないかと思い、用意しました。アドビシステムズの専門家の方に伺ったところでも「これは便利だ」というお墨付きをいただきましたので搭載しようとなりました。
――たしかにこれは便利に感じます。Photoshop CCのアクション機能などを活用するとたくさんショートカットが必要で片手では押せなくなったりします。
中井 このプロキーを置くと、キーボードの「G」と「H」を違和感なく筐体の中央に配置できるという理由もありました。キーボードにはこだわっていて、キートップには微妙なカーブをつけて指を置きやすくしているほか、ストロークも1.7mmと深く確保して、長文のタイピングも快適にできるよう配慮しています。
キーには文字消えやテカりなどを予防するUVコーティングを施しています。タッチパッドにもガラス素材を採用していますが、剛性が高くたわみやしなりなどの影響がないために操作感も向上するんです。
――最後にひとことお願いします。
中井 15.6型の画面サイズのノートPCというのはとても使いやすく、もっとも売上が見込めるボリュームゾーンです。それゆえに、実用性とコストパフォーマンスが優先になりがちで「店員さんにおすすめされてなんとなく買うもの」というイメージが強く浸透しています。
そういう製品を否定するわけではないのですが、われわれはここ数年、もっと別の可能性もあると信じて取り組みをしてきています。15.6型のイメージに一石を投じたい、わくわく感を持って購入する製品にしたい、このLAVIE VEGAには、そうした思いを込めて企画しています。その思いを感じていただければ幸いです。
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February 27, 2020 at 09:00AM
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