<駐留米軍に対するイランの報復攻撃で死傷者が出なかったことから、トランプはこれですべては丸く収まる、とでも言いたげだが>
ドナルド・トランプ米大統領は1月8日、アメリカ国民に向けた演説で、イランがイラク国内の駐留米軍基地に向けてミサイルを発射したことにどう対応するかを説明した。
イラン革命防衛隊は7日、イラク国内の駐留米軍基地2カ所に短距離弾道ミサイルと巡航ミサイルを数十発撃ち込んだ。米軍が、革命防衛部隊の精鋭「クッズ部隊」のカセニ・スレイマニ司令官をドローンで「残虐に殺害した」ことに対する報復だ。
トランプは、スレイマニ殺害の決断は正しかったと改めて主張する一方で、イランの攻撃でもアメリカ人の犠牲者は出なかったと明らかにした。その上で、アメリカとイランは両国の共通の敵である過激派組織IS(イスラム国)と戦うために協力できると呼び掛けた。
ムシのいい話だが、すべてはトランプの思惑通りになるのだろうか。米政府はスレイマニ殺害は自衛、あるいは報復のためだったとしているが、報道によれば、トランプは事前に、スレイマニを殺せば支持率は上がるし、イランも大した報復はしてこないだろう、と語っていた。それが本当なら、トランプは個人的な利益のために政策を歪めたのかもしれない。しかもそのために、イランと全面戦争に陥る危険を冒したことになる。
トランプの弾劾裁判のテーマであるウクライナ疑惑と同じ構図だ。年明けから本格化するはずだった弾劾論議も、スレイマニ殺害事件で吹き飛んだ観がある。
<参考記事>イラン軍司令官を殺しておいて本当の理由を説明しようとしないトランプは反アメリカ的
IS掃討では共に戦ったが
イランのミサイル攻撃でアメリカ人の死者が出なかったことについても、トランプは自慢げに語った。「予防策を取っていたし、早期警戒システムがうまく機能して兵士たちを避難させていた」
イランの攻撃自体も、犠牲者が出ないよう抑制されていたようだ。そこでアメリカも軍事的な報復はせず、経済制裁強化による「最大限の圧力」政策に切り替えると、トランプは語った。少なくとも目先の緊張は和らいだ。
トランプはイランに対し、恒久的な緊張緩和の道も提示した。アメリカとイランは、共通の敵であるISの打倒で協力することができる、というのだ。
アメリカとイランは40年にわたって対立を続けているが、ISを掃討するという目的は一致していた。とくにイラクではそうだ。しかし隣国シリアでは、アメリカがクルド人主体のシリア民主軍を支援したのに対し、イランはアメリカと対立するシリア政府軍を支援したことで袂を分かった。
米軍が殺害したスレイマニ司令官も、イランとISの戦いにアフガニスタンやパキスタンなど遠く離れた地の同盟組織を動員するなど、中心的な役割を果たしてきた。だがISの勢力が弱まると、中東地域におけるイランとアメリカの対立が再燃。とりわけ2018年にトランプ政権がイラン核合意から離脱した後は、対立が激化した。
<参考記事>軍事力は世界14位、報復を誓うイラン軍の本当の実力
2020-01-09 06:50:00Z
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