【台北=伊原健作】2020年1月の台湾の次期総統選で、19日までに全3陣営の立候補者の届け出が出そろった。東アジアでの米中の勢力争いに影響を与える選挙戦が本格化する。最近の世論調査では対中強硬路線の与党・民主進歩党(民進党)の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が大差でリードしている。香港での抗議活動の激化で中国への警戒感が高まったのが追い風となっており、野党候補も自らの親中色を薄めようと躍起になっている。
蔡氏は19日午後、ペアで選挙を戦う副総統候補の頼清徳・前行政院長(首相)とともに台北市内の中央選挙委員会を訪れ、立候補の手続きを済ませた。17日には数万人規模の集会を開き「中国の巨大な圧力の下で自由と民主主義を守ってきた。台湾にもう一度勝利をもたらそう」と訴えた。
台湾メディア・美麗島電子報が16日に発表した総統選の世論調査では蔡氏の支持率は40.5%で、対中融和路線の最大野党・国民党の韓国瑜(ハン・グオユー)高雄市長を13ポイント差でリードする。2月時点では韓氏に20ポイント以上差を付けられていたが、情勢は逆転した。
最大の要因となっているのが対中警戒感の高まりだ。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が1月の演説で、高度な自治を認める「一国二制度」を用いて台湾を統一する意欲を表明。今夏には「一国二制度」の香港で「逃亡犯条例」改正案を巡る抗議運動と警官隊との衝突が激化し「中国と接近すれば香港の二の舞いになる」との市民の危機感が強まった。
国民党側は当初「香港問題はじきに落ち着き、蔡氏への追い風もやむ」(同党所属議員)とみていたが、焦りの色を濃くしている。韓氏は14日に香港民主派が求める普通選挙の実現を習政権に呼びかけるなど、中国本土への厳しい姿勢をアピールして親中色を薄めようと試みている。
韓氏は元青果市場経営者の異色の政治家で「庶民総統」を掲げて経済格差の拡大に不満を持つ人々の支持を集めてきた。しかし直近では活発な高級マンション投資で利益を上げたことが地元誌に暴露されるなどスキャンダルも浮上。支持の伸び悩みが目立ってきた。
ここにきて波乱要因として浮上してきたのが小政党である親民党の宋楚瑜(ソン・チューユー)主席の出馬だ。現在の支持率は10%にとどまるが、出馬を見送った鴻海(ホンハイ)精密工業の創業者、郭台銘(テリー・ゴウ)氏が応援に回る見通し。郭氏とともに二大政党中心の旧来型の政治を批判し、無党派層を開拓する戦略を描く。「蔡氏が取り込んできた無党派票に宋氏が食い込めれば、蔡氏と韓氏の差が縮まる」(台湾・東海大学の潘兆民教授)とみる向きもある。
総統選の行方は米中関係にも大きな影響を及ぼす。台湾は中国の海洋進出の出入り口という要衝にあり、習政権は「核心的利益」がかかっていると位置づけている。
貿易戦争などで対立を深める米国に対抗するためにも、台湾での親中政権の実現を後押ししたい考えだ。その一環として8月から中国から台湾への個人旅行を禁止するなど、蔡政権に経済的な圧力をかけ続けている。
東アジアでの中国の台頭を警戒する米国は8月にF16戦闘機66機の台湾への売却を決めるなど、中国と距離を置く蔡政権に接近してきた。蔡氏は米国の後ろ盾を強調し、中国の圧力で世論が動揺するのを防いでいる面がある。今後、米中が急速に融和に動けば「対米一辺倒は危うい」と蔡政権の外交を批判する国民党が勢いを取り戻す可能性がある。
総統選は12月13日に告示され、来年1月11日に投開票される。次期総統は同5月20日に就任する。
2019-11-19 08:42:45Z
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